FASHIONを通して、毎日をハッピーに。 世界の人々にそんな毎日を届けたい。 そんな仲間の集まる会社の社長記録です。

次世代移動通信「5G」とは 2020年の未来のかたち

携帯電話が登場したのは1980年代。

当時は、出先や移動中に電話ができるだけで驚きだった。その後データ通信が加わり、携帯電話でメールやインターネットの利用ができるようになるなど利便性が、向上し、今ではスマホで動画視聴も当たり前の時代になった。こうした進化を裏で支えているのが、現在のドコモやソフトバンクKDDIなどの携帯キャリアが持つ無線データ通信網の技術革新である。特に、通信システム(インフラ)と携帯端末の両方を、根幹からそっくり入れ替え、大幅な通信速度向上を実現する節目とその仕組みを“世代”(Generation)と呼ぶ。現在日本で主流なのは第四世代、いわゆる「4G」だ。

 

そして今、2020年の実用化を目前に話題になっているのが、次世代の「5G」である。5Gでは当然、通信速度の向上が図られるが、ほかにもIoT時代に即した「同時多接続」や「低遅延」といった要素が盛り込まれ、人々の暮らしを一変させる可能性を持つ。今回は、5Gが浮上した背景や技術動向、5Gがもたらす未来の生活を紹介しよう。

携帯通信の歴史をパパッとおさらい。通信速度は数万倍に高速化!

日本の携帯電話(移動電話)の歴史は、1979年に日本電信電話公社(現NTT)が開始した「自動車電話サービス」で幕を開ける。アナログ方式の第一世代通信システム(1G)で、通話は都市圏に限られるなど制約が多かったが、社用車やハイヤーなどを中心に自動車用の移動通信サービスとして利用された。1Gでバッテリーやアンテナも含めて携帯できる電話が登場したのは1985年で、その名は「ショルダーホン」。重量約3kgの肩かけ式だ。そして、1993年にデジタル方式の2Gが運用を開始する。デジタル化によりメールが利用可能になり、ポケットベルPHSが登場したのがこのときである。

そして2001年には、それまでとは桁違いな数Mbpsの高速データ通信が可能な3Gの運用がスタート。国際電気通信連合 (ITU) が定める「IMT-2000」 (International Mobile Telecommunication 2000) 規格に準拠した通信システムで、日本ではNTTドコモJ-フォン(現ソフトバンク)が「W-CDMA」規格、KDDIau)が「CDMA2000」規格でサービスを展開した。携帯電話でインターネット利用を行うことが一般的になってきたのもこの頃だ。

多様化するニーズにあわせて進化してきた携帯通信。画像は、今年2月にKDDIが行った5Gネットワーク開発に関する記者発表会のスライドより

現在4Gと呼んでいるサービスのうち、「LTE」と「WiMAX」は上記の「IMT-2000」を高度化したもので、「3.9G」と呼ばれ区別されてきた。4Gに限りなく近い3Gというわけだ(後から、LTEも4Gと呼称してよいことになった)。正真正銘の4Gは、「MT-Advanced」規格に準拠する「LTE-Advanced」と「WirelessMAN-Advanced」(WiMAX2)が該当する。複数の電波による通信を同時利用することでより高速なデータ通信を実現する技術「キャリアアグリゲーション(CA)」が肝で、2015年前後から各キャリアがサービスを順次開始し、利用できるエリアや端末が広がっている。たとえばNTTドコモは、2017年3月より「PREMIUM 4G」で、下り最大682Mbpsをうたうサービスを開始した。

携帯通信の歴史をまとめてみると、大体10年代ごとに世代交代を経てきている(※画像はクリックで拡大)

携帯通信の歴史をまとめてみると、大体10年代ごとに世代交代を経てきている(※画像はクリックで拡大)

なぜ5Gが必要なのか?

スマホでメールやSNSを送ったり、音楽や動画を楽しんだりしている範囲では、現状の4G通信速度でそこまで大きな不満はない。ところが、今後はIoT化が急速に進み、身のまわりのありとあらゆるモノがインターネットに接続することで、トラフィック(通信回線を利用するデータ量)の急増が見込まれる。

たとえば、家庭の中に無数にある各種家電、いつも身に付けるウェアラブルバイス、自動運転カー、産業用ドローンなどがその代表格。ほかにも、遠隔医療(診断)、遠隔手術、農業用センサー、道路や橋梁の異常検知センサー、セキュリティカメラおよびセンサー、高齢者や子どもの見守り機器、ペットの見守りアイテムなど、例をあげようとすると枚挙にいとまがない。それらの機器がワイヤレスで通信を行うことは間違いなく、そこで本命視されているのが5G通信網というわけだ。また、映像の8K化や立体化など、コンテンツのリッチ化においても、衛生放送や光ケーブルによる伝送はコスト面を含めて限界があるため、5G通信による解決が期待されている。

過去の「5G Tokyo Bay Summit」でNTTドコモが展示していた、将来におけるコアネットワークイメージのパネル。デバイス制御はもちろん、ITSやヘルスケア、遠隔医療など、日常生活におけるさまざまサービスがネットワークにつながることが見込まれ、トラフィックの爆発的な増加が予想される

5Gでは通信速度が10Gbpsに

5Gでは、通信速度を10Gbps程度に引き上げる方向で検討されている。採用される技術や詳細は策定中だが、通信速度を向上するためには800MHz~1GHzの帯域幅が必要で、現在の4G(最大3.5GHz程度)よりも高い周波数帯の電波を用いるのは確実だ。ほかにも、高い周波数の電波を低消費電力で確実に届けるアンテナおよび伝送技術、Wi-Fiなど他の伝送経路も活用するソフトウェア技術など、多角的な技術検討がなされている。

また、5GではIoT時代を見据え、「多接続性」や「低遅延」の実現も大きなテーマ。IoT時代には、身のまわりのデバイスに加え、目に見えないセンサー等も含めると、数兆個の機器がインターネットに接続すると考えられ、ひとつのセル(アクセスポイント)が扱える機器のキャパシティも増やす必要がある。また、自動運転カー、遠隔手術、触覚フィードバックといった分野では、通信に遅延があると使い物にならない。機器間同士で数ミリ秒以内の低遅延性が求められる。4Gで10ms(0.01秒)程度だった無線区間の遅延を、5Gでは1ms(0.001秒)と1/10まで短縮する方向で検討されている。

上記3つの画像は、今年2月にKDDIが行った5Gネットワーク開発に関する記者発表会のスライドより。他接続に対応し、低遅延を実現するため、エッジコンピューティングの導入やネットワーク・スライスを採用する

大予想! 5Gのある未来の生活

5G時代を迎えると、われわれの生活はどのように発展するのだろうか? 技術説明だけではイメージしづらいので、少し未来の予想も含め、具体例をあげてみよう。

【ケース1】自動車
自動車分野で大きく期待されるのは、自動運転カーの実用化だろう。車が自律的に道路状況を判断して走行し、さらに信号機、近隣を走行する自動車や自転車、歩行者などからも情報を取得するようになれば、より安全性が高まる。先行車からの情報や道路の混雑状況も把握し、ルートを最適化することで、時間短縮や省エネも実現。万が一の際は、遠隔操作(運転)も可能になる。また、車速やさまざまなセンサーから得た情報を共有することで、異常のある車はトラブル発生前に安全に停止させたり、迅速な救護やメンテナンスも行える。

NTTドコモニュースリリースより、5Gを利用した自動運転の実証実験例(自動運転車両の遠隔管制における5G活用に向けた共同実証実験に合意:https://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/notice/2016/11/11_00.html

【ケース2】ドローン
5G通信によってドローンをコントロールできる範囲が広がり、日本を縦断する広域型の登場も期待できる。宅配や、橋梁、道路の保守点検など、現在期待されている用途に加え、ドローンの活用領域がさらに広がっていくことになる。

【ケース3】造成/建築
すでに土地の大規模造成現場で、ドローンで俯瞰および測定を行い、ショベルカーやダンプカーが設計図面に従って高精度に造成を行うシステムが実用化されている。今後、GPSの高精度化や5Gの登場により、街中の小さな現場も無人化が可能に。重機の操作や現場監督も遠隔から操作できるようになるかもしれない。

【ケース4】遠隔手術
医療分野で期待されるのが遠隔地からの手術だ。離島などにいながら、都市圏の専門医の施術を受けられるようになる。手術ロボットが検出した触覚をリアルタイムで執刀医に伝えることができ、より高度な手術も確実に行える。
●遠隔手術で実用化されているロボットの例:Intuitive Surgical, Inc.「da Vinci」(https://www.intuitivesurgical.com/jp/

【ケース5】8K映像の伝送
エンタメ分野での5G利用に関する展望もご紹介しよう。現在、4K映像の伝送には20Mbps前後の帯域が必要とされている。これが、8Kではさらに2倍程度が必要であると見込まれており、放送衛星を用いたブロードキャスト等は多チャンネル化が難しくなる。そこで、5Gで平均100Mbps(最大10Gbps)の通信が実現すれば、8K伝送の普及に貢献しそうだ。さらにその先として、ホログラム立体化、オーディオのハイレゾ多チャンネル化など、コンテンツのリッチ化をめざす場合も、5Gに期待がかかる。こうした映像の高精細化、情報量の増大は、上記のすべての分野をより高度化するのにも役立つのだ。

セコムによる5G通信網を活用したセキュリティサービスの展望イメージ

セコムによる5G通信網を活用したセキュリティサービスの展望イメージ。活用領域を広げるドローンや、構成画像の伝送など、各要素を組み合わせて強化したセキュリティサービスの実現が望まれる

さて、続いては筆者が5G時代に「実現したらいいな!」と思う、夢の未来をご紹介したい。

【5Gで実現してほしい1】ネットで実車自動車レース!
広大な砂漠にサーキットを設け、遠隔操作が可能なフォーミュラーカーを配置。参加者は、スマホゲーム感覚で実車レース体験を行う。5Gなら遅延時間が短く、リアルタイム性が要求される高速レースにも対応可能だろう。

【5Gで実現してほしい2】分身ロボットが代理出張!
分身のように操れるヒト型ロボットが登場。視覚、聴覚、触覚、嗅覚といった五感に関するフィードバックも可能で、実際にその場へおもむいたような感覚が得られる。世界を旅行するもよし、実家に帰って家族と過ごすのもよし、宇宙へ冒険に出ることも可能だ。出張の多いビジネスマンは、遠隔地のレンタルロボットに乗り移って、自宅にいながらワープするように仕事を行える。

さいごに

5Gのある未来は、まるでSF小説のように感じるかもしれないが、2020年の運用開始をめざして実際に検討が進められている真っ只中だ。56年ぶりに開催される東京オリンピックを、自動運転カーで会場に向かって楽しむか、はたまた、自宅にいながら8K解像度のVRで疑似体感するか。いずれにしても楽しみである。

 

鴻池賢三オーディオ・ビジュアル評論家より

5G以後の「動画ビジネス」の勝算 【showroom株式会社前田裕二】

2018/3/10【NewspPicksより】
5Gにより動画ビジネスと動画コンテンツはどう変わっていくのか。何が勝負のカギを握るのか。仮想ライブ空間「SHOWROOM」の前田裕二社長に聞いた。

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5Gの劇的なインパク


――5Gが普及すると、コンテンツ業界はどう変わると読んでいますか。


5Gがもたらす変化として、高速、大容量、多接続性、低遅延などいろいろな要素がありますが、動画の観点で最も重要なのは、低コスト化・省電力化です。
動画配信、特にライブ配信においては、通信回線を使うデータ流量がそもそも多い。長時間見続ける場合に、通信コストと、モバイル端末のバッテリーにまつわるストレスが、普及の大きな障害になっています。
そうした「幅(リーチ)」が取れない状況があるので、現状、モバイル動画広告は、ビジネスとしてなかなか発展しにくい。

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【前田裕二(まえだ・ゆうじ)/SHOWROOM 社長
1987年、東京生まれ。2010年、早稲田大学政治経済学部卒。UBS証券を経て、13年5月、DeNAに入社。同年11月に仮想ライブ空間「SHOWROOM」を立ち上げる。15年8月に当該事業をスピンオフ、SHOWROOMを設立。同月末にソニー・ミュージックエンタテインメントからの出資を受け、合弁会社化。著書に『人生の勝算』】


モバイル動画の広告市場が大きく成長するには、いま、テレビを含むマスメディアに出稿している広告主の目を、モバイル動画に向けさせる必要があります。
そのためには、テレビと同じくらいのリーチが必要です。
今、「モバイル動画×広告」が大きなビジネスにならないのは、リーチが足りないからです。当然、エンゲージメントはモバイル動画の方が高いので、広告単価が変わる可能性はありますが、広告の「深さ」に価値を感じて出稿するケースはまだ多くはないでしょう。
やはり「幅」で攻めねば、と考えた時、モバイル動画も、テレビと同様にリーチをとりにいかねばなりません。

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(写真:iStock/hocus-focus)
リーチ観点で課題になるのは、テレビが完全無料であるのに対して、モバイル動画は実質的には有料であるということです。つまり、通信コストが大きなハードルになっているのです。


ビジネスパーソンや経済的に自立している層では、通信料を気にせずに動画を見れる人も多いため、YouTubeを含むモバイル動画は完全に無料と思っているかもしれません。

しかし、それは大きな勘違いです。

たとえば、若い子にYouTubeのリンクを送ってみてください。その場ですぐに見てくれない子も多いはずです。


なぜなら、Wi-Fi環境ではないモバイル通信下で動画を見ると、すぐに速度制限にひっかかってしまうからです。若年層ほど、外では動画視聴を抑えるのです。

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(写真:iStock/ferrantraite)
今でも、ライブ配信サービスのMAUは、ざっくり言うと、最大で300万人くらいと言われています。1.2億人の人口に対して300万人というのはすごく少ない。


これは、モバイル動画が浸透するためのインフラが整っていないことが大きいと思います。


――テレビが高価で、富裕層の家にしかテレビがなかった時代と似ていますね。
その通りです。


とにかく一番の頭痛の種は通信のインフラコストです。もし5Gでそこが改善していけば、モバイル動画の世界は、完全に変わると思います。


身の回りのあらゆるものが常にインターネットにつながっているような状態を想定すると、通信料と電力消費のコストも当然下がっていくことが前提です。


それによって、動画視聴のコストやストレスが劇的に下がります。
動画を流しっぱなしにできるので、動画のリーチが広がり、モバイル動画広告がようやくビジネスになり始めるはずです。


逆に、テレビはいよいよ苦しい局面を迎えると思います。

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――動画広告の成長とテレビ広告の没落はかなり急だと見ていますか?新聞広告や雑誌広告はウェブの普及により急速に落ち込みました。


変化のスピードは、5Gの普及と価格によります。


5Gがあくまでギークな層にしか広がらなければ、スピードは遅いでしょうが、マス層が5Gに乗っかると、テレビ広告はガタガタと急降下するはずです。

動画の2つのリッチ化


──ほかに5G導入によるコンテンツ面の変化はありますか?


動画コンテンツが2つの方向でリッチ化していくと思います。

1つ目の軸は、テレプレゼンスです。

プレゼンスというのは、その動画を見ることによって、自分もそちら側の空間にいるような錯覚を覚えるということです。ライブをVR360度動画で見ると、自分もライブに参加しているような感覚に陥るような感じです。


今後、AI化やロボット化が進むと、現実世界ではどんどん機械が仕事をしていくようになりますが、それでも人は人のつながりを感じないと生きていけないでしょう。
自分が誰かとつながっている感覚がすごく希少になるため、テレプレゼンスを提供できるような動画メディアが増えていくでしょう。

もう1つの軸は、バーチャルです。

これはテレプレゼンスのように「現実的な世界とつながる」のではなくて、「非現実的な世界とつながる」ということです。実際には起こりえない世界の中に自分がいるという、バーチャル感覚を楽しむのです。


SHOWROOMではバーチャルキャラクターが存在していて、ユーザーはそのキャラクターにギフトを送ることができます。最近、このサービスを始めましたが、すごいアクセス数を集めて、課金もうまくいっています。

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今後は、現実世界で起こりえないバーチャル動画をつくって、それを消費してもらうというやり方が広がっていくはずです。


テレプレゼンスにしろ、バーチャルにしろ、リッチ化した動画を通じで疑似体験できるコンテンツに心を奪われて、お金を使う人は増えていくのではないでしょうか。基本的に動画は、人の感情に訴えかけて、深いエンゲージメントを実現するのにむいていますので。


アナログ回帰が起きる


──動画の普及やリッチ化によって、動画以外のコンテンツは地盤沈下するのでしょうか。


その答えは時間軸によって変わります。


第一段階としては、5Gが普及して、映像のクオリティが上がり、快楽の度合いも高まって、リッチ動画の全盛期が訪れます。


ただ、その何年後になるかわかりませんが、第二段階では、みなが制限されたメディアのよさに気づき始めるはずです。文字だけのメディアや、音だけのメディアの価値をもう一度見いだせる時代がくるかもしれません。


──それはリッチすぎる動画に疲れるからですか?


それもありますが、もっとわかりやすい理由があります。


映画を見るときに、原作を読んでから映画を見るのと、読まないで見るのは印象が大きく異なることがありますよね。


一般的に、原作を読んでから映画を見に行くと、がっかりしたという人が多いと思います。


これはなぜかというと、理由はシンプルです。テキストだけに制限されて物語を味わっているときは、自分の頭の中だけで、自分だけの世界観を描くことができます。制約があるからこそ、本能的にイメージが広がるのです。


しかし、自分のイメージを持って映画を見に行くと、映像とイメージが100%共鳴することはまずないので、どうしてもがっかりしてしまうのです。


それでは、なぜ『ハリー・ポッター』の映画があれだけヒットしたのかというと、原作を読んでみんなが頭で思い描いたイメージに、すごく映像を寄せたからだと考えています。

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(写真:ロイター/アフロ)
僕は、人間の想像力の可能性を捨てたくないと思っています。5Gが普及してリッチな映像技術で表現する世界観よりも、制限されたコンテンツのほうが、人間の心に大きな爪痕を残すような気がします。


──第一段階でリッチ化にいって、第二段階でアナログに回帰するということですね。

回帰する可能性があるということです。

たとえば、今、スナックが流行っていますが、スナックはそんなに食べ物もおいしくないですし、不便です。

それなのに、スナックに行く人が増えているのは、スナックには物語があるからです。スナックでは、自分が物語の主人公の一人になれる居心地のよさがあるのです。

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(写真:iStock/Nastco)
ですから、5Gの到来によって動画の時代は当然来ます。その中でもとくに、ライブ配信が流行るはずです。


しかし、その先で起きるのは、回帰です。制約のあるものが再び重要になってくるのではないでしょうか。


聴覚から視覚への進化


──5Gの普及で動画黄金時代が来たとき、コンテンツ作りの主役となるのは、プロの創り手でしょうか、一般のユーザーでしょうか?

両方ですね。


ひとつ言えるのは、今後、動画のほぼすべてがモバイルというデバイスの上で展開されるようになるということです。


今のテレビ屋さんは、テレビという大画面を前提にして番組をつくっています。みんながテレビを見るという前提で、一方的に視聴者に届けるというスタイルです。


それに対して、今後のプロは、「みんなが楽しい」と思うようなコンテンツをモバイルデバイス向けにつくっていくはずです。ほぼ100%の人がモバイルで動画を見るという前提で、モバイルファーストの番組作りを行うようになるでしょう。

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もうひとつ、5G普及による大事なポイントは、動画の受信コストが劇的に下がるだけでなく、発信側のコストもゼロに近づくということです。


今、ユーチューバーがYouTubeに動画をアップするときは、Wi-Fi環境にいることが多いはずです。動画のアップロードコストは高いですから。


それが5Gになると、誰でも通信料を気にしなくて、どこからでもライブ配信や動画のアップロードをできるようになります。


──ブログの誕生で、誰もが文章を投稿できるようになったのと似ていますね。

そうです。文章が動画に置き換わるということです。


今も、一応、動画やライブの配信はできるのですが、それを行う人の数が、100万人、1000万人へと増えているかというとそうではありません。繰り返しですが、それはインフラが整っていないからです。


──今後は、誰もが動画で発信する時代が来るということですね。

それは人類の歴史を振り返っても、自然な進化だと思います。


15世紀にグーテンベルグ活版印刷を発明して活字メディアが普及する前に、人間が主に何でコミュニケーションしていたかというと、声ですよね。つまり、聴覚です。


それまでは、聖書の内容をストーリーテリングでしゃべって伝えていました。耳で読書していたのです。それが活字メディアの誕生により、読書が目で見るものになりました。聴覚から視覚への移転が起きたのです。

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(写真:iStock/baona)
その後、聖書にも絵が入ってきました。絵が入ったほうが大衆にとっては消費しやすいので、どんどん絵が増えていきました。その行きついた先が、マンガだと思っています。


──雑誌もテキストと写真、ビジュアルの組み合わせですね。

そうです。

そして、さらに映画やテレビが生まれて、映像がコミュニケーションの主役になっていきました。視覚の中でも、テキストの時代は論理、左脳寄りだったのですが、映像の時代には、より感情、右脳寄りになっていきました。

メディアの歴史で起きた、「音」→「テキスト」→「テキスト×絵」→「映像」という進化の流れを踏まえると、インターネット上でも、最後は「映像」「右脳的な視覚」の部分が大きくなっていくと読んでいます。

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──そうなると、動画に精通するのはもちろんですが、テキスト、音、絵、映像など多くの表現手段を持っているメディアが有利ですね。


そうです。そもそも僕はそれぞれのメディアに優劣はあまりないと思っています。

マーケットのニーズはコロコロ変わりますので、その変化するニーズに応じて、カメレオンのように最適なメディアミックスを考えられないといけません。

動画も映像も音もテキストもすべてミックスして、コンテンツがプロデュースできるメ

ディアが強いと思います。それは個人に関しても同じです。

エンタメ課金の3つの世代


──5Gになって、動画が普及し、メディアミックスの時代が到来したとき、コンテンツ企業はどうマネタイズすべきでしょうか。広告と課金のどちらが有望でしょうか。

両方だと思います。

ひとつマトリックスを書いてみます。この図は、横軸に「広告」か「課金」か、縦軸に「幅の広さ」か「エンゲージメントの深さ」をとっています。

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この4象限で言うと、「幅の広さ」×「広告」は少なくとも今は成立していません。


ただ今後、5Gが普及してマスにリーチできる動画メディアが生まれたら、マネタイズできる可能性はあるでしょう。

次に、「幅の広さ」×「課金」は成り立ちにくい。
そもそも課金はエンゲージメントの深さによって起きるのですが、幅が広いコンテンツでは、エンゲージメントが深まりません。ネットフリックスのように、幅広く課金していくビジネスは、日本の場合、どこかで成長率が止まってしまいます。

「深さ」×「広告」は、広告主側の理解が進めば、5Gが普及する前でも成立する可能性は大いにあります。リーチやインプレッション単位でなく、深さ、エンゲージメント単位で平均の10倍の単価でビジネスができれば、リーチが少ないメディアでも十分な収益を上げられます。

最後に、「深さ」×「課金」はすごく可能性があると思います。ユーザーのエンゲージメントを高められれば、課金できる方法は多くあります。

そもそも、エンターテインメントの稼ぎ方には3世代の進化があります。

第1世代は、パッケージ世代です。

これはCDやDVDのパッケージを消費する形です。この第1世代は、インターネットの登場によって、コンテンツの複製が可能になってしまったため、衰えていきました。

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(写真:iStock/ilbusca)
第2世代が体験価値を消費する世代です。

第2世代はコンテンツ価値から一歩踏み出して、体験に昇華しました。ライブに行って、すごくリッチな音響で音楽を聴いたり、友人と一緒に踊ったりするのが典型です。アミューズもエイベックスも第1世代の軸が弱ったため、ライブや物販に軸を移しました。

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(写真:iStock/TomasSimkus)
ただ、ひとつ課題になるのは、ライブなどは会場のキャパシティに限界があるので、スケールを拡大するのが難しいということです。野球の試合にしても、「試合数×球場のキャパシティ×単価」で売り上げの天井が見えてしまいます。

そのため、第2世代型は「どこかで成長が止まってしまう」ということで、なかなか資本市場に評価してもらえません。

そこで、第2世代よりさらに一歩踏み出してできたのが、直接支援市場です。共感経済とも言えます。

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SHOWROOMもYouTubeも米国のパトロンというサービスもそうですが、エンターテイナーとオーディエンスが直接つながって、エンターテイナーが一定の人数の人たちを楽しませたら、その人たちから対価をもらえるというモデルです。

それぞれの規模は小さいのですが、その小さい経済が無数に存在します。超スーパースターが1人いるというよりは、まさにスナック街です。スナックに紐づいた100人ぐらいのコミュニティが無数にあるという状態です。

しかも、ポイントは「多神教である」という点です。

つまり、どこかひとつのコミュニティに絞る必要はなくて、いろんなコミュニティに参加していいのです。ペット動画のコミュニティにも、好きな歌手のコミュニティにも、何個でも参加できる。これが八百万の神がいて、多神教の日本らしいところです。

日本の未来を予想すると、いろんなコミュニティがたくさん自律分散的に出きて、それぞれのコミュニティに同時並行で、同時多発的に所属できるという状態になると思っています。

そして、無数のコミュニティの小宇宙の中で、課金が起きてきて、それを足し合わせると、結構な経済規模になってくるはずです。

──ひとつひとつは小さくても、コミュニティを束ねるプラットフォームになれば、大きい規模になりうるということですね。


スナックを例にすると、すべてのスナック全体をマネジメントしている人が一番儲けているのと構造は近いですね。

 

──テクノロジーを使えば、それぞれのコミュニティに最適化した広告ビジネスができる可能性もありますね。


そうです。「深さ×広告」が成り立つ可能性があります。それぞれのコミュニティにマッチした広告を発信するようなテクノロジーが進む可能性もあります。
100人ファンがいるスナックに対するビジネスを1万回積み上げたほうが、100万人に対するビジネスを1回やるよりも、規模が大きくなるかもしれません。

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本を例にすれば、100人の無数のコミュニティに対して、1000回本を売れれば、10万部になります。大きな本屋さんの目立つ位置に本を置いても、10万部も売れませんから、実は1000回積み重ねたほうがいいビジネスになるかもしれません。


コンテンツは二極化する


──先ほど、3つの世代の話がありましたが、全世代のビジネスを組み合わせてもいいわけですよね。


それもいいと思っています。第1世代型のコンテンツの需要はこれからもあるので、そこはしっかり持っておくべきです。
第1世代型のプロによるコンテンツも、第3世代型の身近なコンテンツも、両方とも生き残ります。言い換えると、自分の物語と、他人の物語の両方を消費してもらえればいいのです。

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たとえば、今後、動画の敷居が下がって、みんながユーチューバーをやったとしたら、「いかに動画コンテンツをつくるのが大変か」「プロが創るコンテンツが卓越しているか」がわかるはずです。プロとの差に気づくのです。


世の中に素人コンテンツがあふれている中で、超スーパーハイクオリティコンテンツがをバーンと突き付けられると、それにしびれてしまいます。


たとえば、ネットでは無数の動画が流れていますが、多くはクオリティが低い。そこに、ONE MEDIAの動画が流れてくると、「お、素敵だな」と思うはずです。

 

だからこそ、クリエーターは、変に他人の物語に迎合せずに、クオリティが高いコンテンツを大事に残していくべきです。


──オリンピックでの羽生結弦選手の演技などは典型ですね。


あれは圧倒的な他人の物語です。こうしたものは絶対残ります。

他人の物語にも2種類あります。ひとつは、他人の物語でかつ、本当に突き放して自分の物語を入れ込む余地がないもの。もうひとつは、自分も物語に入れ込めるものです。

後者の典型が、『君の名は。』です。

なぜ『君の名は。』が流行ったかというと、独白というスタイルをとったのが大きい。「僕が朝起きたら・・・」みたいな独白があると、自分も物語に入り込めます。

実は、『北の国から』もずっと独白です。独白はすごい演出手法で自分を重ねることができるのです。

こうした他人の物語は今後も残りますが、中途半端な他人の物語は消えていきます。

結局、スーパークオリティの他人の物語、自分が入り込める他人の物語、そして、自分の物語。このどれかに当てはまることが、これからのコンテンツ創りのポイントなのです。

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ファッションには未来はあるか?

株式会社せーの
代表石川涼インタビューより

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日本のファッション業界の今後についてどう考える。


僕は、ファッションやアパレルはこれから終わっていくと思っています。
残るのは「感動ビジネス」。
ファッション業界は今すでに衰退していて、ゼロにはならなくてもいずれ稼げる産業ではなくなります。
ファッションがコミュニケーションツールではなくなってしまったんですよね。昔は情報を知らないのが当たり前で、服自体が話のネタになったけど、今は違う。
誰かに会う時も、先にネットでリサーチできてしまうし、ネットの中でどれだけ表現をうまくできるかの方が、その人を判断する上でプライオリティが高くなりつつある。
おしゃれかどうかは昔ほど重要じゃなくて、清潔感さえあればいいかもしれないし、ブランドがいらない社会になっていくんじゃないかとも考えています。

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ファッション業界に入りたいという若者も減っている。


もっと楽しいものがたくさんあるし、ファッション業界には夢がないんだと思う。今の10代って物心ついたときからネット環境があるから、何の違和感もなくいろんなことを吸収して、何が新しくて面白いかの感覚を身に付けている。そうなると、雑誌よりも友達のコミュニティの話題の方がリアルなんだと思います。広告主導の媒体やビジネスは必要とされなくなりますよね。

アパレル企業の社長の言葉としてはずいぶん厳しい。
これはすごく重要だと思っています。この業界の行末を覚悟した上で新しいビジネスを考えていくのと、「まだいける。ファッション業界が死ぬなんてありえない」って信じながら仕事しているのとでは、この先に雲泥の差が出てくるんじゃないですか。

 

これから必要とされるビジネス。
「感動ビジネス」とは…


瞬間的に「かわいい」「かっこいい」「面白い」というもの。「gonoturn」もそのひとつで、そういった感覚は言語が必要ないですよね。ウェブは世界中全部つながっているし、そういうビジネスに寄っていった方がいい。僕らはこれから、感動を売っていきたいと思っています。

「売れるものはかっこいいもの」という考えについて、「かっこいい」の定義は。
「かっこいい」の定義はすごく難しいですが、時代によって変わっていくと思います。例えば90年代にかっこよかったのは、数が少なくてみんなが買えなくて、しかも高いもの。でも今は違って、人をわくわくさせられるものですね。みんなが「欲しい!なにこれ!やばい!」ってなるもの。得てして、ユーザーがそのとき欲しいものが一番かっこいいんですよ。今みんなが欲しいものは、間違いなく「共感を生むもの」なんですよね。


これからやってみたいことは。

 

「感動」して、「共感」して、それを「共有」することが全てです。つまりSNSでシェアすることもそうだし、みんなが「これすごいよ」って話題にするようなものを作りたい。それはファッションでも食べ物でもいいし、とにかく最後、人を感動させて死にたい。時間は限られているから、自分が生きている間にどれだけの人を色々な意味で感動させられるかどうかですよね。それをやりたいです。

 

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■石川涼(RYO ISHIKAWA)

1975年、神奈川県生まれ、静岡県育ち。株式会社せーの(Ceno. Company.)代表取締役
2004年、ファッション・ブランドVANQUISHをスタート。06年に、渋谷109MEN'S館にショップを出店、ほどなく"ギャル男"の象徴ブランドとして、絶大な支持を得る。株式会社せーのは、現在はVANQUISHを含め6つのメンズブランドと、レディースブランド3rd by VANQUISH、マスクブランドgonoturnの計8ブランドを展開する。