FASHIONを通して、毎日をハッピーに。 世界の人々にそんな毎日を届けたい。 そんな仲間の集まる会社の社長記録です。

【ファッション業界ウラ話】三根弘毅氏トークショーレポートより

ロンハーマン立ち上げから今日まで」SOLEIL TOKYO主催、サザビーリーグ・リトルリーグカンパニープレジデント三根弘毅氏トークショーレポート

 

日本ブランドの海外進出サポートなどを行う(有)カシュ・カシュ主催の合同展示会「SOLEIL TOKYO(ソレイユトーキョー)」では、ファッションに関わる人に役立つ場の提供を考え、著名な業界人をお呼びしたイベントを開催しています。

今回は、カリフォルニア発のスペシャリティストア「Ron Herman(ロンハーマン)」日本上陸の立役者、三根弘毅サザビーリーグ・リトルリーグカンパニープレジデントを迎え、「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」久保雅裕編集長の進行によるトークショーが行われました。

三根氏は大学卒業後、伊勢丹(現・三越伊勢丹)に入社後、バイヤーとして買い付けに携わり、2008年に入社したサザビーリーグロンハーマンを展開。立ち上げから今日までをテーマに、どんなことが語られたのでしょう。
talk

ロンハーマン立ち上げまでの経緯

久保さん(以下、敬称略):伊勢丹を辞められたのが2007年位ですよね、辞めてロンハーマン立ち上げまでの経緯を教えて下さい。

三根さん(以下、敬称略):自分が「これが最高」って思えるセレクトショップをつくりたかったんです。伊勢丹に来た人が、リ・スタイルに寄って買い物をするのとは違う、わざわざそこに目掛けて来てもらえるようなお店を、死ぬ前につくってみたいと思ったんです。ある意味、本当に自分がやりたいってことをやってみたかった。

僕は、モードが好きで、古着も好き、サーフィンも好きなんですけど、今までそれぞれのお店に行って買っていたことを一つのお店で出来たら面白いって思ったんです。本国のロンハーマンにいくと、僕らファッション業界にいる人でも知らないようなブランドがいつも沢山置いていて。『彼と一緒にやりたい』と思ってロンに直接会いに行きました」。

久保:そこから口説くのに、結構時間がかかったんでしたよね?

三根:何度も通って、じゃあいよいよ契約、っていう次の日急にウォンの暴落があって。そのときロンは韓国と契約したところで、全部がキャンセルになったことを受けて、アジア人は信用できない!とか言われて。笑。

とりあえず帰国してまた別のタイミングで会いに行くことを繰り返していましたね。最初はビジネスの話なので通訳をずっとつけていたんですけど、最終的には通訳を外して自分で熱意を伝えました。そしたら、突然ラック3〜4本くらいのアイテムを使ってバイイングテストをさせられて、とにかくやってみるしかなかった。それで合格、と言ってもらって、という経緯です。

久保:それってすごいですよね。三根さんの熱意が伝わったっていうことです。当時ちょうど、千駄ヶ谷の場所が空いていたことも大きいですよね。

三根:これは人通りがなくて、駐車場があって、誰も来ないようなところでやりたい、って思っていたんです。そしたらオフィスの下がちょうど空き物件で、そこでオープンすることに決めました。そこから自分たちで掃除して、そのうちに掃除業者の人が手伝ってくれたりとかして。「こんなところで店やるの?」って聞かれて、「そうなんですよ、そのうちすごいことになりますから!」って言ったのを覚えています。

久保:まるで小さな3,4坪のお店の人たちが、自分たちの手で一から作ってオープンする苦労話みたいですね(笑)。

mine_san

ブランドイメージを守るための事業

久保:リトルリーグカンパニーでは、いくつか卸事業もやっていますよね。その事業について教えてください。

三根:百貨店時代、自分が仕入れて流行らせたブランドがあっという間に広がることで、ブランドのイメージが壊れてしまうのが怖かった。だから、自分が見つけてきたブランドのイメージを自分で守りたいって思ったんです。いいなと思うブランドを見つけたら、そのブランドの代理店になりたいと思った。

最近、オリジナルブランドを増やしすぎて製造小売業なのかセレクトショップなのかわからなくなっているお店が多いと思うんですけど、僕らはオリジナルは3割くらいに抑えたくて、2割が代理店ブランド、3割がオリジナル、5割が買い付けのバランスでやっていけば利益が得られるし、代理店事業はシナジーの一つとしてありました。

久保:ロンハーマンは国内の店舗数も随分増えましたけど、「西海岸カジュアルの代名詞」など言われていて、そのうち“なんちゃってロンハーマン”みたいなお店も出てきて、結局だめになったりもしている。そういったお店とロンハーマンは何が違うんでしょう?

三根:“カリフォルニアブーム”、“ライフスタイルの走り”、なんてよく言われますが、僕らとしてはまったくそうは思っていなくて。お客様にとっての「最高に刺激的で最高に幸せな気持ちになるお店」を目指すのが僕らのスタイルなんです。ライフスタイルビジネスというのは、お客様の心の持ちかたも変えることができる、そんなお店だと思っています。

お店に来て、「こんにちは」って挨拶から始まって、最後の「ありがとうございます」までの間に、お客さんの中に気持ちの変化が起こってほしいというのが僕らの商売の基本です。それだけではもちろんビジネスにはならないですけど。

寒くなったからセーター買いに行こう、暑いからTシャツ買いにいこうという洋服屋ではなく、「天気が良くて気持ち良いからロンハーマンに行こう」という存在でありたい。そうするとスタッフの態度、表情、会話、服装、空気、音楽、香り、すべてのことがデザインになっていく、それができてこそなので、もしそこまで真似できるお店が出てきたとしたら、逆に頑張ってほしいですね。

お客様のためにスタッフが自主的に動く

久保:スタッフが、自然とそういう考えを持つなど、自発的な動きになる理由はどこにありますか?

三根:最初の採用時に、まず“性格が良い人”を採ります。どんなに技術がある人よりも性格が良い人が大切。技術は後からいくらでも教えられるけど性格は変えられないから。笑。

素直で楽しい、一緒にやっていきたいという人と働きたい。そして、お客様を楽しませることが大切だから売上が取れなくっても良いけど、お店の雰囲気が悪いのは良くない。マネージャー陣が情熱をもって取り組んで店ごとに自主的に動いてくれています。

久保:そういうことって、本当に自主性が大切ですよね。

三根:やらされてるんじゃなくて自然と自発的にやることが大切なんですよね。例えばバイヤーは、ものに対する思いを伝えるために勉強会をやって、ものに対する思いを熱心に伝えていますし、お店の皆も熱心に聞いています。

mine_san2psd

ロンハーマン流、販売のあるべき姿とは?

久保:ロンハーマンのようなお店って、なかなか店舗数を増やすことが難しいですよね。

三根:そうですね。いま15店舗ですけど、これが限界かなと思っています。RHC事業などはまだ広がっていくけど、ロンハーマンに関しては一旦出店を打ち止めにしたいと思っています。希少価値を大切にしたいし、同じものがいつでもあるお店はお客さんは面白くない。だから代理店事業もやっているんですよね。

久保:最後に、今ECが非常に増えていますけど、小売業って本来は接客して、お客様にものの良さを伝えて、共感してもらって商品を買っていただく、みたいな“こうあるべきもの”がある気がしますけど、三根さんが思う販売のあるべき姿とは?

三根:ロンハーマンではEC事業を一切やっていなくて、今後もやるつもりはないです。やったら売れることは確実だけど、お客様にその空間でひとつの経験として商品を買ってもらいたい。ECに携わる外部の人たちの話を聞いていると、いつかそういう頭も持たないといけないのかと考えますが、僕がやりたいのは「小さな商店」なんです。

小さな商店の規模が大きい版がロンハーマン。来てくれた人にとって「あぁ、あの時あの店であの服を買って、元気もらったな」っていう思い出になるようなお店、そういうお店でありたい、と思っています。

 

お客様や商品、空間、働くスタッフへの愛情を端々に感じる三根さんの言葉には、純粋にファッションを楽しむことの面白さが伝わってきます。

技術よりも性格の良さ、人を動かす熱意というものがビジネスの根底にはある、ということが学べたトークショーでした。

 

PROFILE

三根弘毅(みね・こうき)

1971年生まれ。サザビーリーグのリトルカンパニーの旗艦業態、Ron Hermanの事業部長から4月1日付昇格。現リトルカンパニー社長に就任。

大学卒業後、伊勢丹(現・三越伊勢丹)に入社。バイヤーとして長年国内外のブランド買い付けに携わり、2008年にサザビーリーグに入社。カリフォルニアのスペシャリティストア「Ron Herman」を本国以外で初めて展開した。たとえ買い物をせずとも、後になってそこで過ごした時間を思い出せるような店でありたい。千駄ヶ谷をはじめ国内にRon Herman12店舗 RHC2店舗を運営する。