FASHIONを通して、毎日をハッピーに。 世界の人々にそんな毎日を届けたい。 そんな仲間の集まる会社の社長記録です。

令和元年 ファストファッションの闇「ユニクロ離れ」した若者は、いま何を着ているのか?

f:id:antwarpboss:20190817111936p:image2019/7/14
リーズナブルでおしゃれな服が着たい──。どれだけテクノロジーが進化しようとも、流行に敏感な若者のニーズはいつだって変わらない。
そしてZARAH&MユニクロやGUなどのブランドは、そうしたニーズに応え続けて成長してきた。
最新の流行を低価格に抑えて世界中で販売するアパレルブランドは「ファストファッション」と呼ばれ、若者たちをとりこにしてきた。
しかし今、日本でファストファッションの牙城が、少しずつ崩されようとしている。おしゃれな若者たちは、スマートフォン1つで韓国や中国のメーカーの洋服を購入しているのだ。
なぜわざわざ韓国や中国の服を買うのか。NewsPicksは、アパレル界の新たな潮流を追った。

f:id:antwarpboss:20190817111954j:image

(photo:kurmyshov/Gettyimages)
ファストファッションの「弱点」
今から11年前の2008年。H&Mが日本に上陸したことが、アパレル界で大きな話題になった。
日本1号となる銀座の店舗にはたくさんの若者が押し寄せ、長蛇の列を作った。その光景を目にした日本のアパレルメーカーたちは、ファストファッション時代の到来におびえていた。
このビジネスを支える仕組みは、SPAと呼ばれるサプライチェーン一気通貫モデル。商品の企画から製造、販売までをすべて自社で完結させることが特徴だ。
大量生産によるコストダウンのほか、複数の卸売業者を通す伝統的なビジネスモデルを踏襲しないことで、低価格を実現するのが強みとされる。
こうしたSPAモデルは、当初の予想通りにアパレル界を席巻し、現在、日本ではH&Mが85店舗、1998年に上陸したZARAは約100店舗を展開。827店舗を構えるユニクロを加えて3強の構図になっている(いずれも2018年度期末決算より)。

f:id:antwarpboss:20190817112008j:image

(photo:NurPhoto/Gettyimages)
しかしこうしたファストファッションには、落とし穴があった。
大量生産された服は、低価格と引き換えに「人と被りやすい」という問題を内包しているのだ。しかも、巨大化すればするほどデメリットは顕在化しやすくなる。
さらに、インスタグラムなどで「自分を見せる」ことが当たり前になった今、人と同じ服を着ることを恥ずかしがる人が多くなった。
消費者にとってファストファッションでの買い物が、“リスク”になりつつあるのだ。
とはいえ、1着数万円は下らないラグジュアリーブランドの洋服は、簡単には手を出せない。とりわけ若者にはハードルが高い。
そんな悩ましい心理をうまく突いたのが、韓国や中国から届く「安くて人と被らない洋服たち」だった。
「3週間待っても」欲しい服
若者たちが韓国や中国の洋服を手に入れるのは、もちろん実店舗ではない。オンラインで便利に買い物ができるようになった今、流行のショップはスマホの中にある。
インスタグラム上で40万人のフォロワーを擁し、女子高生や大学生から人気のファッションサイトのアカウントがある。アパレルECを展開する「17kg(イチナナキログラム)」だ。
イチナナキログラムのアカウントには、おしゃれな服を着た女性モデルの写真がずらりと並び、1日に10商品程度が新しく追加される。洋服のデザインはシンプルというよりも特徴的で、あまり街中で見かけない奇抜なものも少なくない。
価格はフリルトップス1900円、デニムスカート3100円など、H&MZARAと比較しても、同じか少し安いくらいだ。
年商は非公開だが、設立から3年ですでに数十億円規模。前月比110~120%で推移しており、昨年同月比では5~10倍という驚異の成長を遂げている。

f:id:antwarpboss:20190817112052j:image

イチナナキログラム公式Instagramの様子。(アカウント名@17kg_official
ただし欠点は、配送の遅さ。消費者のもとに商品が届くのは注文をしてから1~2週間後で、中には3週間以上かかることもあり、稀に届かずに勝手にキャンセルになってしまうものもある。
その理由は、在庫の少なさにある。イチナナがあらかじめ仕入れるのは1つの商品あたり、数着から最大で20着程度で、注文が入ってから仕入れるケースもあるほどだ。
韓国にはたくさんの種類の服があるため、どの商品が売れるかわからず、大量に仕入れられない。その結果すぐに在庫が切れてしまい、入荷に時間がかかって商品を発送できないのだ。
「もちろん、時間がかかりすぎてご指摘いただくケースはありますが、ごく少数です。ほとんどのお客様は、安くて人と被らない服なら、待ってでも欲しいと思ってくださっています」(イチナナキログラム 塚原健司社長)
イチナナキログラムと似たサービスはすでに十数種類もあるといわれており、中には、注文が入ってから商品を調達する企業もあるという。
「東大門市場」の秘密
「待ってでも韓国の洋服が欲しい」という消費者がいることは、日本に欲しい服がないことの裏返しでもある。
なぜ韓国のアパレルは、安くて沢山の種類の洋服を作ることができるのか。その秘密は、ソウルにある「東大門市場」の独特な流通システムにある。
東大門市場は、アパレルの巨大マーケット。昼間は観光客で賑わい、22時以降になるとイチナナなどの小売業者が店主と交渉し、仕入れを始める仕組みだ。
売られている服は、女性モノが9割。1〜10坪ほどしかない小さな店が500店舗以上入居する卸ビルが、30棟以上乱立している。東京ドーム13個分の土地に、およそ25000もの店舗がひしめいているのだ。

f:id:antwarpboss:20190817112111j:image

(photo:Starcevic/Gettyimages)
出店している店の多くは、近隣の工場を所有するオーナーたち。完成品を卸業者に販売するのではなく、自ら生産した洋服を小売に直接、販売している。
日本やアメリカなどの韓国ファッションECを手がけるリアルコマースの崔ハンウ社長は、東大門市場の背景をこう説明する。
「1980年代にラグジュアリーブランドが韓国から中国に生産拠点を移しました。その結果、生産ラインを持て余した韓国の工場オーナーが、培ったノウハウを元に、デザイナーを雇って自社製品をつくり始めたのがきっかけです」
実際に、東大門市場から2キロの圏内には2000以上の小さな工場が立ち並んでいる。
それぞれが必死に生き残る手段を模索し、業者の間では、生地や材料、ノウハウの共有といった助け合いもあれば、価格やデザイン面での競争も日夜繰り広げられてきた。
その結果、東大門市場という限られたマーケットで、アパレル文化がガラパゴス的に成長したのだ。そしてこの場所では、3つの特徴が定着していった。

f:id:antwarpboss:20190817112128j:image
「1日1000点」を作り出す
1つ目が、少量多品種生産だ。
東大門にある工場は、基本的には同じパターンの服を大量には作らない。市場内には2万以上の競合店があるため、たくさん在庫を抱えてもすぐにマネされて、売れなくなってしまう可能性があるからだ。
確実に売れる数を少しずつ作って、なるべくリスクを取らない。そのため、東大門では最低50枚1ロットから洋服をオーダーできる。中国の相場が300~400枚ということからも、いかに東大門が小ロットかわかるだろう。
2つ目が、圧倒的なスピードだ。東大門市場では、企画から1週間で完成品が店頭に並ぶといわれるほど、洋服の生産スピードが速い。
これは周辺に工場が集積しているため、洋服作りに必要なボタンやタグ、ファスナーなどがすぐに集められることが理由だ。場内をバイクで一周すればすべての部品が調達できてしまうほどで、洋服を作るための機能が2キロ圏内にすべて揃っている。
ちなみに、工場から東大門市場も近いため物流にも時間がほとんどかからない。

f:id:antwarpboss:20190817112128j:image

(photo:alexandrumagurean/Gettyimages)
そして最後の3つ目が、リーズナブルな価格。
物流コストを低く抑えられる上、デザインにもあまりお金をかけないのだ。細部にこだわるのではなく、少しずつパターンを変えながらたくさんの商品をひとまず完成させる。
それを東大門市場で販売し、売れたものだけを再生産するという「マーケットイン」の発想なのだ。
ちなみに、売れなかった洋服は再生産されることがない。そのため、ECサイトが商品を調達できず、注文した商品が勝手にキャンセルされることが稀に起こってしまう。
こうした独自の生態系によって、多い日で1日に1000点という新商品が東大門市場で生まれている。そしてそれをイチナナなどの小売企業が買い付け、日本の消費者のもとに届けられているのだ。
アパレル「新潮流」の兆し
ただし、東大門市場の独自性がこの先もずっと維持されるとは言い切れない。
スマホ半導体などのテクノロジー製品が、韓国から中国に移動しているように、ユニークな東大門市場の特徴もまた、中国に移り始めている。
「ここ数年で、少しずつ東大門と同じクオリティのアパレルマーケットが中国でもいくつか生まれ始めました。ECサイト仕入れ先も韓国からコストの低い中国に移り始めています」(イチナナキログラム 塚原健司社長)
代表的なのは、アリババグループの本拠地としても知られる浙江省杭州と、香港北西部にあたる広州だ。
杭州にあるマーケットは、アリババの主力ECサイトタオバオ」にちなんで「タオバオ村」と呼ばれ、かつての東大門のように、急増しているアパレルEC業者からのニーズに市場全体で応えている。
また広州は3つの商圏に分かれており、その全てを合わせると世界最大規模のアパレル卸売市場になるともいわれている。

購入された商品は、卸売店の前で積み上げられる。

f:id:antwarpboss:20190817112221j:image

(photo:Zhang Peng/Gettyimages)
今や世界の安価な商品を、ECを通して簡単に手に入れることができるようになった。
そして、そうしたオンラインショップに若者が集まり、店舗に足を運ぶ頻度が少なくなるのは、当然のことなのだろう。
2018年9月、日本のファストファッションブームの象徴だったH&Mの銀座店が10年の歴史に幕を下ろした。
2017年10月にはフォーエバー21の旗艦店である原宿店も閉店。トップショップやギャップ傘下のオールドネイビーもここ数年の間に日本市場から撤退している。
均質的なファストファッションから、世界中の洋服をECで手にいれる時代へ。アパレル界は少しずつだが確実に変わり始めている。
その変化の兆しを逃さないためにも、日本で動きだした小さな潮流から目が離せない。

Newspicks より
(執筆:高橋智香、編集:泉秀一、デザイン:國弘朋佳)