FASHIONを通して、毎日をハッピーに。 世界の人々にそんな毎日を届けたい。 そんな仲間の集まる会社の社長記録です。

売らない接客

買い物が怖い若者達「j-fashion」より

 
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1.良い商品を知らない世代
 
 最近、上質志向が強まっていると言われている。私なりに分析すると、以下の三つぐらいに集約されるのではないか。
 (1)市場が高齢化しており、安いだけの商品が売れなくなっていること。
 (2)全ての商品に上質を求めるわけではないが、自分がこだわっている分野の商品には上質なものを求める。興味のない分野、こだわらない分野は安い商品でいい、と割り切っている。
 (3)インバウンドの人達が日本に求めるのは、安物ではなく、デザインも品質も良い商品であること。
 さて、上質と言っても、何が上質なのか。どういう商品が上質なのかを明確に定義付けるのは難しい。
 価格優先のモノ作りが定着した結果、どの程度の商品が普通で、どの程度の商品が安物というのかが曖昧になっている。
 
 繊維製品、アパレル製品で言えば、昔はある程度の規格が決まっていた。例えば、「シーツなら、この番手の糸で、この程度の密度で織らないとダメ」という基準がメーカーや問屋にあった。こうした基準を覚えることが、モノ作りを覚えることだったのだ。
 しかし、今では、品質管理室を通れば、品質に問題がないとされる。品質管理室の基準は、クレームを受けない基準に過ぎない。着心地が悪くても、使い心地が悪くても、1シーズンでダメになっても、販売時点で一定の強度などをクリアすればいい。
 80年代、日本の繊維製品は過剰品質と言われたものだ。必要以上に品質を維持し、利益を削っているというのだ。現在は、過剰品質のものは姿を消した。安い商品は安いなりの品質である。むしろ、品質は低いのに価格が高いという「過少品質」の商品が目立っているように思う。
 私が体験したことだが、量販店の商品企画の担当者は30~40歳代であり、中国輸入品による激安ブーム以降に入社している。「シニア層対策として、上質な商品を作ろう」という方針があっても、何が上質かが分からない。入社以来、「いかに安く作るか」だけを考えてきたのであり、「価格は上がっても上質な商品を作る」ということが、どんなことか実感できないのである。
 
2.購買の不安を解消する
 
 消費者の意識も同様に変化している。先日、30歳代の女性がこんな話をしてくれた。
 「私は服に自信がないので、彼氏とか販売員の人の意見を聞かないと買えない。良い商品と分かっていても、高い商品を買うのは怖い。もし、変な商品を買ってしまったらどうしよう、と不安になる」
 私が全く予想していなかった意見であり、本当に驚かされた。私は、若い女性はファッションが好きで、買い物を楽しんでいると思っていた。考えてみれば、コモディティ商品としての安い商品だけを買っている人が圧倒的多数だ。最早、何の抵抗もなくファッション商品を買える人は少数派なのかもしれない。
 消費者が購買に不安を感じているとすれば、不安を取り除かなくてはならない。
 一つの解決策として、こんな話を聞いた。
 「お客様をモデルにして、プロのヘアメイクさん、カメラマンさんが本格的な写真を撮るイベントをすると、すごく喜んでもらえる。今まで、安い小物しか買っていなかった人が、突然、モードが変わって何万円も買い物をすることもある」
 これは、イベントを通じて、顧客同士が話をしたり、スタッフとの信頼関係が構築されて、安心して買い物ができるようになったということだろう。顧客はお金がないわけではない。高額な商品を買うことに、不安感を抱いているに過ぎない。不安を取り除くという意味でも、コミュニケーションが大切であり、それにはイベントが契機となる。
 また、製造工場を見学に行くと、安心して高額な商品を買うこともある。それも、工場で働いている人と対話し、互いの信頼感が構築できるからと言えよう。
 
3.販売員はカウンセラー?!
 
 人気のある占い師は、占いをするというより、個人的な相談を持ちかけられることが多いという。実際には、占い師ではなくカウンセラーの仕事をしているのだ。しかし、日本人はカウンセラーに相談することに慣れていない。だから、カウンセラーの代わりになる人を探しているのかもしれない。
 洋服の販売員に対しても同様のことがあるらしい。店に来るのは、「丁度良い相談相手を求めて」という理由だ。仲の良い友人、会社の同僚でも、個人的な悩みを聞いてくれたり、愚痴を聞いてくれる人は少ないものだ。といって、全く知らない人に話すわけにもいかない。
 仲の良い販売員は、知らないわけでもなく、共通の知人がいるわけでもない。軽いコミュニケーションを取れる相手というのが、丁度良いのかもしれない。
 私が驚いたのは、「5~6時間も店に滞留する顧客がいる」という話だった。午前中に来て、お昼を挟んで、午後までいるとのこと。あれこれ商品を見繕いながら、馴染みの販売員と会話を楽しむ。というか、会話をするために店に来ているのである。商品を購入するのは、そうしたトータルなサービスに対する対価なのだ。
 そうだとすれば、単に商品のお畳みと声がけをするだけの販売員では意味がない。あるいは、アルバイトやパートだけの店もつまらない。店は、商品を販売するだけではない。馴染みの友人に会いに来るのだ。
 というか、そういう店づくりをしなければ、店舗に来る意味はないのだろう。商品と現金を交換するだけなら、ネットで購入すればいい。店に来るのではない。人に来るのだ。
 
4.商品を売らない日をつくろう!
 
 販売員は予算を持っている。優秀な販売員ほど、一生懸命に商品を売ろうとする。しかし、売ろうとすればするほど、コミュニケーションは取りにくくなる。
 逆説的だが、商品を販売しない日を決めるのは、いかがだろうか。販売員のノルマもなくし、ゆっくりとお客様と会話を楽しむ。何か、ゲームをしてもいいし、新しい音楽を一緒に聞いてもいい。
 試着会を行うのもいいだろう。これも顧客だけでなく、販売員も楽しんでしまう。みんなでSNSに上げて、人気投票をしてみよう。
 お茶を飲んだり、お菓子を食べたり、ゆっくりと時間を過ごしてもらう。デザイナーも参加して、お客様と会話してみるのもいいかもしれない。
 勿論、どうしても欲しいという人には販売してもいいが、基本的には売ろうとしない、というのがルールである。
 さて、こうなるとマニュアルだけの販売員はどうするのだろうか。「ゆっくりご覧くださ~い」という気の抜けたような声掛けもなくそう。商品を売るトークではなく、売らないトークができるだろうか。
 これからは、「売らない接客」が重要だ。商品を売るのではなく、店をコミュニティの場として機能させること。そして、顧客と店との関係の次元を上げること。これが目的である。
 
 
ファッションビジネスコンサルタント 坂口昌章氏 より引用